地に足をつけたときには、若干肌寒いように感じた。いや、鳥肌が立っていたせいかもしれない。梯子を伝って着陸なんて聞いていない。てっきり切り開かれたところがあって、そこにヘリコプターが着陸するのかと思っていた。
少しずつ高度が下がってきたと思ったとき、操縦士が徐に「つきました」という言葉を発し、それが合図かの如くルード先輩が鉄の扉を開いた。大量の空気と、莫迦にならないほど五月蝿いプロペラの騒音が入ってきて、先輩の行くぞ、という言葉が全く聞こえなかった。鎖と棒で出来た梯子を宙に投げ出し、そそくさと先輩たちは降りていく。少しでも風がそれに当たればかしゃかしゃと動くどころか、降りてゆくその動作でぐらぐらと揺れていた。
元々高いところが得意なほうではない、寧ろ苦手だ。血の気の引く思いだった。きっと相当顔色が悪かったのだろう、地面間際で先輩に心配さえされてしまい、大丈夫ですと頷くので精一杯だった。手の指が真っ白で、相当な握力を使った気がした。
それから大分足を動かしている。落ち葉だらけの道をじゃこじゃこと鳴らしながら。もちろん、道などではない道を。中腹の方では緑色をした葉っぱが周りにたくさん生茂っていたが、上るにつれて空気が乾燥していて、みんなぱさぱさした黄色をしていた。
情報によると、今上っている山の麓に今は使われてない洋館があり、怪しげな集団が一週間ほど前から出入りしているらしい。常に見張りが居て、武器らしきものを運び込んでいる、とのことだそうだ。
わたしたちはその洋館の裏手から探りをいれるわけで、山を越えなければならない。
もしソルジャーや軍だったら、表の入り口から堂々と入っていって暴れまわっているのだろうか、なんて阿呆なことを考えていたことに苦笑をしてしまう。もちろん、頭の中だけでだ。顔に出す余裕なんてない。手足を動かすので必死だ。どんどん進むところが険しくなっている。
いつの間にかに先輩たちと大分離れてしまっていた。坂というよりも斜面というほうが正しいようなところを、所々に顔を出している木の根やちょっとした岩に掴まって這うような形で先に進んでいる。息だってぜいぜいしていて、見失わないようにするのがやっとだ。
一段落上りきり、少し拓けたと思う場所に出たところで先輩たちが待っていて、早速足を引っ張ってしまっていることが申し訳なかった。
「先輩・・・すいません」
「気にするな、ずっと歩き通しで疲れたから此処で一回休息でもするか、と」
レノ先輩はそう言って、近くにあった倒木の上に腰を下ろした。だが、ルード先輩が一瞬の怪訝な顔。任務は痕跡を残さないように出来るだけスピーディーにこなさなければならない。それは常識だ。こんなところでだらだらと油を売っている暇は無い。
レノ先輩は明らかにわたしを気遣って、だった。息が上がっているどころか、疲れた顔色さえ伺えない。
「レノ先輩、わたし大丈夫ですから」
声が掠れて肩で呼吸しているわたしが言ったところでなんの説得力もない。
「別に誰ものために休息するとは言ってないぞ、と」
口元の先を薄っすらと上げてわたしを見た。
丁度そのわたしたちの間を、金色の銀杏が一枚はらりと落ちていった。