主任に彼女の名を教えてもらったあと、まっすぐ自分の部署の机に向かった。パソコンを起動させ、パソコンのボタンワンクリックで彼女の出生からここに入社するまでのデータが見れた。手馴れた手付きで自分のノートパソコンにそのデータを転送した。神羅内部の情報をこうやって見ることは普通なら出来ないが、敵組織の内部情報を手に入れるために幾多も行ったハッキング技術をもつ俺にはお手の物だ。
机の上にいつも山積みになっているはずの報告書が今は無いせいか、広く感じた。マウスを動かしても腕に何も物が当たらない。彼女が片付けておいてくれたからだ。まあ押し付けてしまったと言うほうが正しいだろうけれども。あの膨大な量の報告書を一人でやってもらったとなると、悪いことをしたかなという罪悪感が少しだけあった。今度コーヒーでも奢ってあげよう。
彼女の顔がふいに浮かんだ。柔らかそうな唇を閉ざし、人形のように見開いている目。主任が話しているとき、主任の瞳をじっと眺めていた。何を考えているのか、彼女の中で何が渦巻いているのか、まったくわからない。ただ、危険の伴うかもしれない今回の任務に、怯えていることは伺えた。好みとか狙っているとかとは関係なしに、少し話してみたいと思った。
パソコンの転送画面からふっと顔を上げると、目の前にはルードがいた。
「勝手に仲間のデータをハッキングして見ることは感心しないな」
「組む相手のディティールを知ることは良い事だと思うぞ、っと」
データの転送が完了したのを確認すると、本体と繋いであったプラグを抜いた。そしてかちゃかちゃとコードを打って勝手に情報を見ていたことの履歴を消す。証拠隠滅、というやつだ。ルードに目を配ると眉間には皺がよっていて、サングラスを掛けていても苦い表情をしていることがわかった。
ルードは俺と違って真面目だ。俺が職務を怠っているとかそういう意味ではなく、変な意味で頭の回転が悪いというか、寡黙というか。神羅にとっての優等生、というところだろう。
性格がま逆で、最初一緒に組んだときは大分揉めたことだ。しかし今ではいい相方だ。
「ばれたら厳しい処分なんだからな・・・それだけはわかっておけよ」
「りょうか〜い」
ピースサインをしてみせた。だが、事の重大さをちゃんとわかっているんだかわかっていないんだかわからない返答にルードは溜息を軽く落とした。大丈夫、ちゃんとわかっているよ、そう言おうかと思ったがやめておいた。ルードが俺のところに来るということは、そろそろ出発ということなんだろう。ノートパソコンを自分の鞄に入れて椅子から立ち上がった。ヘリの中ででもじっくりと彼女のデータを見ればいい。本体のパソコンのシャットダウンボタンを押してルードのあとについていった。