仮眠室は左の廊下の一番奥にある。基本的にタークスはそこまで会社が費用を回してくれるようなところでもないらしく、左の廊下は奥に進めば進むほど蛍光灯がぼんやりしていたりちかちかしてたり切れている。事務員さんが蛍光灯変えてるところなんて数回しか見たことが無い。エントランスや一般人も入れる展示室はちょくちょく見かけるけれど。ソルジャーフロアに関してはエントランス並に設備がいい。ちきしょうめ。タークスは何でもやる精鋭部隊だからソルジャー2ndよりは給料がいいらしいと聞くけど。
休息室を過ぎたあたりで足元が暗くなっていく。一歩踏み出すたびに静かな空間に音が反射して響く。壁に“此処から先仮眠室よりお静かに”と書かれたプレートが貼られていた。俺が使っていたころはまだこんなプレート貼られていなかったいなかったのに、とちょっとした時間の経過を感じた。
それにしても仮眠室なんて久々に使う。本当に入りたての新人のときは使ってけれど、仕事に慣れてきたらギリギリまで家で寝てたりしている。口元をやんわりと上げた。目の前には左右対称に仮眠室の扉が続いている。どれも大体ドアが開いている。タークスの人数に対して部屋数が多すぎなせいだろう。
ふっと見ると、ドアが一つだけ半開きになっていた。アルミ製の扉が微かに揺れ動いて光を反射する。
なんとなくそこに惹きつけられた。中を覗かなければならない、そんなような気がした。何かにとり憑かれたように足が一歩、また一歩とそこへ進む。扉の奥、その空間に、何か、いる。
俺はそっとその隙間を覗き込んだ。
窓からのまばゆい光が逆光になる、暗いところにいたせいで眩しく感じる。部屋の中にいたモノの姿が段々と浮かび上がる。なにかが異様だった。
扉を開いた延長線上にある小さな窓、ぎしぎし言いそうな鉄パイプのベット、これはいつもと変わらない。いつもと違うのは、ベットに人がもたれかかっていた。女、というより、少女だろうか。ぐったりと頭が垂れている。艶やかで美しい焦げ茶色の髪、華奢な体。
それだけなら異様とは言い難い、美しいとも捉えることが出来ただろう。この光景を異様と思わせたもの、それは少女の目元に付けられている。
少女は黒いベルトのようなもので、全てを拒絶するように目隠しをしていた。
今にも壊れる一歩手前、混沌とした歪みのふちに立っている。脆く、そんな印象を伺えた。一瞬俺はそれに魅せられた気がした。時間が止まったようだった。
そして思った。彼女は一体誰なのだろうか、と。身なりからして同じタークスのようだ。
その時すくっと少女が立ち上がった。背丈が凄く小さい、俺より二十センチは小さいだろう。切りそろえられた前髪、揺れる長い後ろ髪はまるでお人形のようだ。何故か体をびくりと一度させたが、その後ゆっくりとベットを伝いこちらへ歩き出してきた。瞳は見えない、しかし目隠しをしていてもわかる、この子はきっと美しいのだろう。
そう思ったとき、突然扉が開いた。
「うぉっ、と」
びっくりして飛びのいた。少女も驚いた様子をみせた。
「・・・・・・すいません・・・、おはようございます・・・・」
何かに怯えるようにそう言ってすぐに足早にエレベーターへ駆けていった。なんだか面白くない。
俺は部屋に入ってベットにダイビングした。当然の如く着地地点はふかふかしておらず気持ちよくない。
溜息をつきながらアラームをセットした。