いたるところに埃が溜まっていて、天井についているいかにも高そうなシャンデリアも、明かりを灯すこともなくただのインテリアになっていた。多分何十年も掃除をしていない。足で一歩床の赤い絨毯を踏みしめる度にそれの上にあった埃の絨毯が散り、わたしたちの歩いた足跡がくっきりと付いた。歩くたびに埃っぽくなる。
ハウスダスト(埃アレルギー)のせいで、目や体中が凄く痒くなってきた。一応ハンカチで口と鼻を押さえて進むが、あまり効果をなさなかった。自然と目を細めて痒さに堪える。

「目の前にあるそこの角にカメラがあるから気をつけて進めよ、と」

レノ先輩が囁くようにそう言った。
確かに周囲の暗さに馴染むように真っ黒なカメラが天井から監視していた。埃を被ってないので最近に取り付けられたものだろう。ルード先輩がカメラだあるいと言っていたのは忘れてはいなかったが、言われなければ気づかなかった。

「はい」

真似して囁くように言った。でも出できたのは囁くような今にも死にそうな声だった。

「・・・ハウスダストなんだから、今度から目薬とか持って来いよ。後で俺のペットボトルの水やるから目洗え。意外と埃っぽいところが任地のときあるから」

捨て台詞を吐く様に言うとレノ先輩は足早にカメラの死角を通って角を右に進む。
ハウスダストのことは誰にも言っていないはずなのに、何故この人は知っているのだろう。疑問を思いながら後を追うようについて行く。
それは自分の内緒にしているものを全て暴かれているような気分で、凄く嫌な感じだった。
この人とはあまり関わりたくない、関わったらいけない気がする。
彼の背中を思い切り睨んだ。背を向いているから気づかれないだろう、いやもしかしたら気づいているかもしれない。だけど構わずに睨んだ。睨むことで自分の心が満たされる錯覚をさせたかった。
レノ先輩は何も言わずに黙々とルード先輩の潜む部屋へと道を進む。何も言わないそれがまた腹立たしく思えた。すごくむしゃくしゃする。
思い切り泣いて、その痩せっぽっちだが大きな背中を叩けたらどんなに楽なのだろうかと考えた。自分らしくも無い考えにまたイライラした。
大きなお屋敷なので部屋と部屋の間隔が凄く広い。早くルード先輩と合流して、二人という状況を抜け出したい。わたしにはぽつりとしているほうがいいのだ。
いつの間にか走って移動をしている。レノ先輩が走るからだ。着いた右から二番目の扉をたどたどしくレノ先輩が開いて入る、わたしは慌てて入る。
そこには待っていました、と言わんばかりにルード先輩がいた。