頂上を下り、道の無い坂道を永遠に降りて行くと、少しずつだが枯れ木に葉が付き鬱蒼とした森を形成していった。更にずっと進むと、古びた洋館の裏に出た。わたしの膝はガクガク笑う一歩手前あたりだった。大分急な坂も一気に下りたせいかもしれない。
突っ立つ二人の目の前に広がるそれの外観は、俗に言う“おばけの出そうな”というようなものであった。クリーム色の壁は、煤だらけで、その上からびっしりと蔦植物が絡み合い張り付いている。所々壁が欠けた部分からは壁の下地になっている朽ちたような色をした赤レンガが覗く。剥げ落ちた紺色の屋根は崩壊し、穴が空いて、所々木の板が腐ったように突き出ていた。各部屋にあるのであろう白縁の窓はガラスが全て割れていて窓の意味を成していない。が、しかし窓一つ一つに丁寧に真新しい真っ黒いカーテンが備え付けられていて、全てそれが閉まっている。此処には誰かが住み込んでいることは確実だ。
「おっ、来たな」
レノ先輩の持っている無線機のランプが赤く点滅しはじめた。ルード先輩からの屋敷内部の速報だ。それのスイッチを押し、二人とも耳を澄ます。ざぁぁという入り乱れた機械音と共にルード先輩の声が入る。
『ルードだ。聞こえるか?』
「あぁ、聞こえる。俺らも今現場についた」
『そうか。俺は今一階を調べ終えて、裏門を入って右に進んで二つ目の部屋にいる。アバランチのアジトかは断言できないが、所々監視カメラがあって普通の民間人が内部に住んでいることはなさそうだ。詳しいことは合流したときに伝える。取りあえず今俺のいる所に来い』
「了解だぞ、と」
白く長細い指で無線のスイッチを切った。軽く周囲を見渡したのち、付いて来い、といつもより真剣な声色で言って音を立てず駆け出した。仕事モード、のレノ先輩になったのだろう。わたしも後を追うように駆け出す。
洋館の裏門の柵にぺたりと背中を貼り付け、中を覗く。続くようにわたしも同じ動作をする。
門の中には裏庭が広がっており、もう大分使われていないであろう石造りの古井戸と、小さい子供が遊ぶ用のブランコがあった。ブランコはとうに錆びていて、風が吹くたびにきぃきぃと鈍い金属の擦れる寂しい音を出していた。伸びきった庭の芝生は妙に青々としている。
緊張の色を見せた面持で、最初は慎重に、門をくぐってからは急いで、その芝生を踏みつけ通過し、内部へと潜入した。