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先輩の手が突然にわたしの肩を叩いた、体がびくつく。それと同時に癖の貧乏揺すりをしてしまっていたことに気づいた。みっともないからやめろ、と両親から何度も言われていたことを思い出す。顔を上げるとレノ先輩の顔がこちらを向いていた。

「大丈夫か?」

先輩の言葉、心配しているように瞳にわたしの姿が映る、でもその藍色のレンズの奥底には興味という言葉が現れていて、そのさらに奥には歪んだ色が見えた。この人の中にはわたしは映っていない、初対面だから当たり前のことかもしれない。でも、少し、わたしと似ているところがあるのかもしれない。直感だが、感じる。塞がっている瞳。でもこの人は、物事を興味のある物と無い物で見ているだろう、そこがわたしと違うところ。

「ええ・・・すいません」

立ち上がって肩につくその手がそれ以上あることを拒んだ。
休息は十分に出来た。先輩の気遣いに感謝をするが、これ以上二人きりで一緒にいるのには息がつまるものがある。そろそろルード先輩のもとへ行こう。余計な詮索をされるのが嫌だから。
レノ先輩は悪い先輩ではない、優しい先輩だ。でも、なにか、怖い。

「もう、平気です。十分に休息できました。ありがとうございました」

「そうか、それはよかったぞ、と」

そそくさと立ち上がり、くるりとわたしに背を向けて言葉と同時に歩き出す。つられるようにそれについてゆく。
足の重さはもう無い。また暫く頑張れるだろう。
後ろを向くとさっきまで座っていた倒木が閑散とそこにあった。周りにある殆どの樹木も落葉しきっており、凄く寂しいものであった。わたしたちはあの中にいたのだ。
先輩に気づかれないように持ってきた頓服薬をポケットから取り出し口に放り込んで唾で飲み込んだ。
まずい、左手が震え始めている。震える左手を抑えようと右手を添えるが、止めるどころか皮膚を掻き毟ってしまう。
多分、今回の任務にそうとう精神エネルギーを使っている。緊張とかそういうので疲れたのであろう。先輩たちにはばれないようにしたい。
自分を落ち着かせるために目を瞑る。開く。息を吸う。吐く。
わたしはそしてレノ先輩の背中に駆けて行く。