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彼女の眉はいわゆる八の字になっている。なんだ、ちゃんと表情を出せるのではないか。手が震えていたり、顔色が悪くなったりといった変化はあったものの、ずっと無表情だったから表情の変化が出せない子なのかと思っていた。そんなやついるのかよ、となるかも知れないが、神羅という会社の中ではそういうやつが案外いるのだ。
なんだかそれを見て、嬉しくなった。

「おい、レノ」

「ん?」

「休息なんかとれるほどの時間があると思っているのか?」

「いいや。ただ体力が切れ掛かっている彼女を連れて行っても、任務の成功率が高くなるわけではないぞ、と」

かといって休息をとればとるだけなにか不利なことがおこる確立も高くなる。今は丁度山頂あたり。枯れ木ばかりで身を隠してくれるものも何も無い。黄色に乾燥した木の葉や幹ばかりのここでは、タークスの黒いスーツはより一層際立つ。本音を言えばさっさと山を降りてアバランチの基地なのか、そうでないのかなどの調査をしたい。ただ彼女を放って置くわけにもいかない。
だいたいまだ新人の彼女に、しかも初めてのこんな本格的なタークスの仕事で、いきなり熟練の俺らについてこれる筈が無い。だからこうなるのは仕方の無いことだ。

「・・・・・・ならば、二手にわかれよう。俺は先に目的地に行き調査をしている。二人は少し休息してから来い。何かわかり次第無線で伝える」

「了解、と」

ルードは俺らに背を向け走り出していった。地面の落ち葉が踏まれ舞い上がる姿を、彼が見えなくなるまで見続けることが出来た。彼から彼女へと目をやると依然立ったままだったので、座っている倒木の隣をぽんぽんと叩いて、ここに座れ、と彼女が座るための口実を先輩命令ということで作ってあげた。
彼女は小さく頭を下げ俺の隣に腰を下ろす。優しく括られている柔らかそうな焦げ茶の髪がふわりと宙を舞い、ワンテンポ遅れて元の定位置に戻った。
間近で見ると、ますますお人形のようだなぁと思った。
そして頭の内にヘリの中で見ていた彼女についてのデータが、脳内の画面にタイピングされるみたいに凄い速度で打ち出され文字の列を成し文章を作り張り付いていく。
出生地、出身校、家族構成、どういった経緯で神羅に入ったか。何か病気を持っているか。色々な検査の測定値。
彼女と話がしてみたい。そう思った、あのとき。
いい機会だ、今話してみよう。いや、計画的に、こう持ってきたのだが。
以外と俺は策士だぞ、と。