窓越しから、ぽつぽつと降る雨を見た。雲はどんよりと重く、塗り固められたような灰色をしている。くり貫かれた小さい窓からだが、それでもこの薄暗い部屋には申し分ないくらいに光を注いでいた。
四畳半の部屋には、打ちっぱなしのコンクリートの壁に沿ってパイプで出来たいかにも寝心地の悪そうな二段ベットが二つ陣取っていた。
あと二時間ほどの休息。そうしたらまた、アバランチのアジトを見つけるために諜報活動。
基本的には24時間仕事(まあ、休息も入るけど)のタークスの仮眠室は、いつも人がいない。きっとバラバラに入って来ているのだろうけれども、仮眠室の部屋数も多いことや夜に寝て朝に起きるという規則正しいが無い為か、まず顔を会わせない。
床にぺたっと座り込むと、ひんやりとした感触がお尻に伝わってきた。急激な眩暈。物凄く眠い。
そういえば、実家にはまだ一度も帰ってないな。仕送りは毎月しているが、仕事上家に帰ることなんてめったに無い。まして、タークスに入って半年の新人が、だ。だが、帰りたいとも思わない。
比較的今は平和な方らしく大変なことはないらしいけれど、アバランチがいつ動き出すかわからないから気が抜けない(らしい)。
なんでタークスに入ったのだろう、最近そんなことが頭を過ぎる。軍事学校の友達はみんな神羅の兵士やソルジャー、科学者や開発研究者になった。わたしはタークスの適性検査でたまたま適性との診断を受け成績もノルマを満たしていた。仕事が墓を掘り返したりなんやらで進学希望者が比較的少なく進学しやすかった。それが理由でタークスに入った。ただ下手すれば命を落とす危険があるにも関わらず、裏の仕事だからソルジャーのように民衆に評価されるわけでもない。なんとなく、悔しい、というかそんな思いが少しあった。
力無く床に垂れた手を握った。少し汗ばんでべたつく。気持ち悪い。

「・・・・・・シャワーにでも入ろう。今日の分の薬も飲まなきゃ」

再び窓の外を見ると、さっきよりも雨足が強くなっていた。冷たく鋭いナイフが幾多も空から落ちてくる。
ああ、この雨は一生止まない気がする。
わたしはゆっくりと立ち上がる。寮に戻るまでがとてつもなく億劫だった。シャワーから上がったあとに珈琲でも飲みたい気分かもしれない、と思ったときにぴしゃんと鈍い鋼色の光が窓から一瞬届いた。よたよたと歩く。
仮眠室の扉を勢い良く開くと目の前に誰かがいた。

「うぉっ、と」

これは先輩のレノさん、の声だ。ぶつかった音はしていないはず。

「・・・・・・すいません・・・、おはようございます・・・・」

びっくりした。会釈と挨拶をしてすぐに廊下を歩いた。いつもよりも早歩きで歩く。エレベーターでエントランスに行くまで心臓は驚きでばくばくいっていた。
また知っている人に出会うと嫌なのと、受付嬢に話しかけないと傘を借りれないのが面倒だったので、そのままカンパニーの出入り口につっこんでいった。
外はきっとどしゃぶりの雨であっていて欲しい、そう思って。