夜、仕事が終わり僕が自宅に帰宅すると、部屋の中が荒れていた。
部屋は暗く、窓が開いていて、彼女のお気に入りの淡いエメラルドグリーンのカーテンがゆらゆらと揺れていた。ワイシャツ、ぬいぐるみ、鉢植え、枕、ティッシュ、床一面に広がっている。玄関に鞄を置いて、首を締めていたネクタイを緩めながら部屋の奥に入った。前に進めば進むほど、嗚咽とすすり泣く声がする。部屋の一番隅っこに、大きな布団の塊を見つけた。ゆっくりとその塊の方へ、すぐ後ろへ、歩いて足をとめる。


「ただいま


返事は返ってこなかった。そっと布団を剥がしていくと、怯えるように体を小さく丸めて震えている彼女がいた。服の裾から覗く白く細い腕の先には、いくつもの赤い線が刻まれているのがわかった。剥ぎ取った布団にも、彼女のか細い温もりと、彼女から流れ出た赤い血が付着している。彼女は月明かりに照らされて、より一層小さく見える。壊れないように手を伸ばし後ろから抱きしめると、体が一瞬ビクついたが、安心するように震えが止まった。


「お、帰り、雲雀。仕事、は、終わ、った、の?」


嗚咽が混じって途切れ途切れの言葉。独りが嫌いな彼女が、不安と戦いながらずっと僕の帰りを待っていてくれていた証拠。彼女は果敢なく、脆い。消えそうになりながらも、消えないように耐えている。


「ああ、終わったよ。今日もちゃんと薬を飲んだかい?」


一回こくりと頷く。そうか、と独り言のように声を漏らし、背を向けたままの彼女を僕のほうに向かせた。
泣き腫らした目は赤く充血し、頬には涙がついさっきまで伝っていた痕が残っている。縋るように一途に僕を映す瞳。そんな彼女が本当に愛しい。


「ほら、目を瞑って」


僕は彼女にキスをした。



最大の