あのとき彼女はその行為が果てるまでひたすら茨の痛みを我慢し、全てが終えたとわかったときには意識を手放していた。泣きはらしたその瞼は赤く腫れていて、出来るだけ優しく少女を抱きかかえ、自国へ帰路する海軍とは名ばかりの海賊の船へと乗り込んだ。
深い深い後悔、自己嫌悪、自責の念。いくら神に懺悔をしても見放されてしまうのではないかと強く思った。
愛おしい。初めはこんなことをしようなどとは考えてもいなかった。ただ少し港に立ち寄り、他愛の無い話をして君の頭を撫でて、迎えに来たんだよ、と一言声をかけて。美しいと言ってくれた白い薔薇の花束も抱えてきた。喜ぶ顔が浮かび一人浮かれていた。しかしそのときあろうことか君はフランスといたのだ、とても、楽しそうにランチをしながら二人は会話を。久しぶりに目の前にいた君は少し大人になり美しくなっていて。ふつふつと激しい嫉妬と憎悪が渦巻く、君が知る世界は俺だけでいいと思ってた。よりにもよって、何故あんなやつと。衝動を押さえることが出来なかったのだった。
イギリスへ着くといの一番に彼女を家へ抱き運んだ。血にまみれた服をそっと脱がし、お湯で濡らしたタオルで体を拭いてやった。起きるかと思ったけれども決して瞳をあけることもなく、規則正しく呼吸をして眠り続けていた。近々送ろうと思っていたパジャマをきせてあげて、彼女に似合うだろう可愛らしいアンティークで揃えて用意しておいた部屋のベッドに寝かせた。額にキスをする。
いつからかわからない、いつの間にか彼女に恋をしていたとこの日に痛感したのだ。
その日から彼女が眠りから目覚めるまで、いつまでも隣で手を握り祈り続けた。もう起きてはくれないのかとさえ思い嘆きそうになったこともあった。彼女は三日目にしてその瞼を開く。
だが視界から覗くのは色の無い灰色の世界、その眼を見て愕然とした。
その小さな手を握ったまま床に膝を付き、こんな姿を初めて見たであろう情けないくらいの涙をぽろぽろと流し、声にならない声で神への懺悔を唱え続けた。