さっきからアメリカ製のチョコレートを口に含みながら、うへぇ甘い、とか、着色料多すぎて体に悪そう、とかゴタゴタと彼女はぼやいていた。そんなに言うなら食べなければいいのに、と思うけれどもそれでも美味しそうに食べてくれる彼女を見ると言う気が失せてしまう。あまりに美味しそうに食べるので、僕にも頂戴と言うと、メタボリックは食べちゃ駄目と言われた。酷いよね。彼女は凄くちっこいのによく食べて、なのに全然痩せていて、東洋人はみんなガリボリックだよ。発言すると、デブだって沢山いるよ、わたしは太りにくい体質みたい、とケラケラ笑っていた。
あまり凹凸の無い顔に、小さい鼻。小動物みたいにくりくりした黒い瞳に、落ち着いた髪の色。きっとこれがアジアンキューティーと言うのだろう。ビューティーじゃないのかよ、とここでツッコミを入れられた。僕は彼女はお人形さんみたいで可愛いと思うから。
彼女はたまに僕の家に遊びに来る。今でこそ独立したが、独立前まではイギリスから酷い束縛を受けていた。僕が彼女の独立にバックアップしたのがきっかけで親しくなった。イギリスは最後まで嫌がっていたけれども、僕を中心とする枢軸各国の賛同もあり渋々承諾をした。武力抗争になる一歩手前だった。それ程彼女はイギリスに寵愛されていた。

僕も独立する以前から彼女のことは知っていたけれども、連れてきてと言っても連れてきてくれなかった。ただ沢山お話はしてくれた。彼曰く、とても"どこか影があり儚く脆そうな" 子らしい。子供ながらにどんな子だろうかと興味を抱いていた。
イギリスが海賊時代を経て少し落ち着いてきたとき、気になっていた彼女に会ってみたくて半ば無理矢理イギリス邸に押しかけた。イギリスがいないということを知っていて。
凄く広く古びた洋館のイギリス邸で彼女を探すことは骨を折る作業だと思っていたが、案外簡単であった。一つだけ部屋に鍵がかかっているのだ。その扉をガチャガチャとピンを使ってこじ開けると、可愛らしいベイビーパープルやミルキーピンクのアンティークで揃えられたその部屋のベッドの上に彼女がいた。いや、彼女自身もアンティークのようだった。ネグリジェのようなドレスのような部屋着に、長い長いよく櫛をかけてあろう艶やかな髪。克明に覚えている。彼女はにこりともせずにただ真っ黒く虚ろな瞳をみせていた。机の上にはいくつもの薬が散乱していた。

「……アーサー………?……」

無機質な声。これを聞いたときに、ああ助けなきゃ!と強く思った。彼女の肩に手をかけてお姫様抱っこをしようとしたら彼女は酷く暴れて、それでも僕は彼女を持って自家用機に押し込めアメリカへ飛んだ。髪も乱れたままの状態で、飛行機の中でずっと震えて怯える彼女をどうすればいいかわからなくて、自分の無力さを酷く痛感した。手が自然と彼女に伸び、アメリカにつくまでずっとずっと抱きしめ続けていた。それしか浮かばなくて、ただひたすらに。そのうち震えは嗚咽になり、細い腕を僕の背中に手を回してすすり泣いた。小さな彼女を余計に小さく感じた。
このとき僕は強く強くヒーローになりたいと思った。それを望んだのだ。

今彼女は大分元気になってくれた。様々なカウンセリングも受けさせて、瞳を物を移すことを与えられたように笑顔を見せてくれるようにもなった。それでもまだ完全だとは言えないだろうけれども。

「ハンバーガーが食べたい」

ソファーに寝転んだ彼女が唐突にそう言った。僕の服の袖をちょいちょいと引っ張る。

「二人で食べに行くならいいよ」

彼女は少し考えるような動作をしたあとに首を縦に一人納得するように二回頷かせると「ならアメリカの奢りね、アメリカがこれ以上太ったら嫌だからあんまり食べちゃダメ」そう言い僕の眼鏡を背伸びしながら押した。当然身長差が凄く開いていて、彼女が背伸びしただけでは届かないだろうから膝を折ってあげた。

恋をしているのかはわからない。だけど彼女のヒーローになりたいと思ったことは変わらない。

「さぁ、行こうか」

多分、きっと、これからも。