「やぁ、

名前を呼ばれて驚いて目を開くと、窓越しにアメリカの庭にいるロシアがいた。ロシアは全体的にとても色素が薄いから、コントラストの強い色合いが多いアメリカのそこから浮き立っているようで、例えるなら色画用紙いっぱいにクレヨンで描いた絵の上に、白い画用紙に鉛筆で一つだけ描いたキャラクターの絵を切り取って貼り付けた、そんな感じだ。
何故ここにいるんだろう、白昼夢でも見ているのだろうか、それとも不思議なロシアンミラクルを使ったのだろうか。そう思ったときに背後からいきなり強い力で引き寄せられた。それはアメリカによるもので、大きな背後に隠されたのだ。

「……なんの用だい?」

普段からは想像もつかないようなくらい低い声、幼さや明るさなんて一切含まれていない。アメリカの明らかにぴりぴりとしたその空気で、二人の仲が良くないことを容易に感じとれた。

「君になんか用は無いよ、飛行機がエンジントラブルを起こしてやむなく不時着してしまったのさ」

こんなところにね、というロシアの表情はいつもみたいな穏やかだったけれども、言葉の至る所に鋭い棘が含まれていた。

「それよりも、一緒に遊ぼうよ。アメリカと話してても楽しくないしね。」

窓越しにおいでおいでと手を招く。それを見てますます背中に隠された。険悪な雰囲気が漂うなかでこんなことを思うのはどうかと思うが、シューベルトの「魔王」の様子みたいだとふと浮かんだ。世の者とは思えないぐらい綺麗な白色、日差しなど浴びてはいけないと思わせるほど。それはまるで魔王だ。大きな背に隠されているわたしは子供の役だ。独特のあの旋律が頭を回る。

「ねぇ、「駄目だ、あんなやつとあそぶな」

いきなりの強いその口振りで言葉を制す、アメリカが背後にある掴んだままの手をぎゅっと握る。それは力加減をわかっていないほどのものでぎちぎちと痛かった。アメリカが怖く思えるぐらいに。戸惑ったように視線をロシアに送ると、そのときに初めて気がついた。白すぎてわからなかったけど大量の汗がわき出ていて、顔色もなんだか悪い気がした。服もよくよく見れば所々に土埃が付着し、普段よく洗濯された綺麗な服を着ている彼を考えると珍しかった。多分飛行機不時着といってもきちんとした場所などではなくて、それこそ広い広いアメリカだったら森とかに着いてしまうことが自然だろう。
アメリカはそんなことを気付いている筈がない。
ロシアはひきつった薄ら笑いを浮かべながらゆらゆらと立つ、目の色もぼんやりと濁っているようだ。助けなくては、でもアメリカの掴むそれが鎖みたいに邪魔をする。

「離して!」